この照らす日月の下は……
05
「キラ。ラクスちゃんにご迷惑をかけてはだめよ?」
きれいにドレスアップしたカリダがキラに向かってそう注意をしてくる。
「大丈夫だよな。キラはいい子だから」
逆にハルマはそう言って目を細めた。
「ラクスもキラちゃんに迷惑をかけないのよ?」
ラクスの母もラクスにそう声をかけている。
「わかっていますわ、お母様」
それに彼女はこう言い返した。
「……ママ……」
ふわりと微笑むラクスは自分の本当の友達なのだ。そして、母親はカリダの親友だという。
それならば、と思いながらキラはカリダを見上げる。
「あなたがそれでいいならかまわないわ」
カリダはそう言って微笑んで見せた。
「あら、何の話?」
ラクスの母が即座に問いかけてくる。
「内緒の話よ。後でラクスちゃん聞いてみて」
「……それじゃ仕方がないわね」
あっさりとうなずいてみせるのはラクスを信頼しているからなのか。それともカリダの言葉だったからなのか。
いったいどちらなのだろう。キラにはわからない。それでもそう言える彼女はすごいと思う。
「では、行ってくるわ」
「キラ、いい子にしているのよ?」
そんな言葉を遺して大人達は出て行く。
「行ってらっしゃい」
「頑張ってくださいませ」
この言葉に三人は立ち止まるとうなずいて見せた。
二人だけになると、とたんに楽屋の中は静かになる。
さて、いったいどう切り出せばいいのだろうか。こんな風に家族以外の誰かと話をしたことがないキラにはすぐに思い浮かばない。
「キラ」
どうしよう、と心の中でつぶやいたときだ。ラクスが微笑みながら口を開く。
「まずはジュースでも飲みませんか?」
「……うん」
ひょっとして気を遣ってくれたのだろうか。自分とあまり年が変わらないのにどうしてこんなに違うのだろうと思う。
「オレンジとグレープのどちらがよろしいですか?」
「……オレンジかな」
「すぐに用意しますね」
ラクスはそう言うと冷蔵庫に向かう。そして中からボトルを二つ取り出した。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
「どういたしまして」
ラクスはそう言うと、まずは自分の分に口をつける。それを見てキラももらったジュースを一口飲んだ。
「これ、おいしい」
思わずこうつぶやく。
「気に入ってくれて嬉しいですわ」
ラクスも微笑みながらそう言い返してくる。
「お友達に喜んでもらえるのが一番ですもの」
「そうだね」
だから、とキラは続けた。
「ラクスには内緒のお話をするね」
「何でしょう?」
「僕、男の子だけど、本当は女の子なの」
それでもお友達でいてくれる? とキラはラクスの瞳を見つめる。
「もちろんですわ、キラ」
それにラクスは満面の笑みを浮かべてうなずいて見せた。